その配慮は誰のため?
少し前になりますが、ある時期「忖度(そんたく)」という言葉が非常に話題になったのを覚えていますか?当時私は読み方も意味も知らなかったのですが、辞書で調べるまでもなく、連日テレビで紹介されていました。
忖度とは、『相手の気持ちをおしはかること』
だそうです。
「おしはかる」とは、 『推測する。推量する』 という意味ですので、
忖度とは、 『相手が言っていることではなく、気持ち(真意・本音)を推測する』
ということでしょう。これは簡単なことではありません。
その空気、読めてますか?
日常で使う近い言葉を思い浮かべてみると、「空気を読む」というのが近いかなと思います。これは目の前の相手だけでなく、会議など複数いる場において使うこともありますね。空気を読まない(読めない)人のことを「KY」と呼んでいましたね。思ったことをそのまま口にできれば誤解もなく楽なのですが、そういうわけにもいかない場面は多々あります。その時私たちは「空気を読み」、または「忖度」して発言、行動します。こうした配慮をしながら日々過ごしているわけですが、その配慮がふさわしくない場面もあるようです。
復職者への対応について
メンタルヘルス研修をしている中で、休職者が復帰してきた時の対応について話題になることがあります。ある研修時に受講者の方から、「休職期間中にどんな状態だったか聞いてもいいものですか?」と質問を受けました。あなたはどう思われますか?聞いても良い、聞くべきではない、それぞれお考えがあろうかと思います。
私はその時、(聞いてどうするんだ?と思いつつ)「誰が聞いてくるかにもよるし、その人が聞かれることに対してどう考えるのかにもよりますよね。人によって違うと思います」と答えました。
つまり、聞いてきた相手との関係性によって、話しても良いと思う人と、この人には話したくないと思う人がいるのが本音でしょう。また、誰が聞いてきたとしても、話して差し支えないと思う人もいれば、話したくない、聞かれたくないと思う人がいるのも当たり前です。人によって違います。
プライベートの、しかも休職中の体調の話題ですから、興味本位で聞くものではないと考えるのが一般的でしょう。軽はずみにする話ではないことはご理解いただけると思います。それこそ「忖度」して欲しいことですが、本当のところは真意を聞かなければわかりません。そうしたご説明をした上で、「聞いても良いかを聞いてみたらいかがですか?」と答えました。その際は、話したくなければ無理に話す必要はないことは丁寧にお伝えいただければと思います。
また、復職者に対しては、定時勤務や担当業務を減らす、社用車の運転禁止など、一定期間は体調面を考慮した業務制限をすることがあろうかと思います。ここでも誤った「忖度」から好ましくない配慮をすることで、順調な復職を妨げる場合があります。上司は復職者に「配慮」して、業務を制限し、負荷を軽減して様子を見守っているようにしているつもりでも、ご本人は「腫れ物に触るように遠巻きに見られている、仕事をさせてもらえない、干されているような疎外感がある」と感じることがあります。なぜこのようなことが起きるのでしょう。復帰してからの業務についてきちんと面談機会を設けて意思確認せずに「忖度」し「配慮」しているケースが多いのではないでしょうか。 私がうかがったことのある好ましくない配慮をした例をご紹介すると、
- 休職者に対し、上司が毎日自宅を見舞い、会社や業務の状況を説明された。
- 召集されていた会議から、連絡なくスケジュールが削除されていた。
- 担当していた業務のメール宛先から削除された。
- 本人ができると考えている業務まで一切制限し、他に指示を与えなかった。
- 復帰後数週間~1ヶ月以上、メール整理や清掃のみ指示された。または業務制限のみで何も指示を受けなかった。
- 復帰時、全社員の集まる朝礼で復職者に挨拶させた。
極端な例だと思われるかもしれませんが、対応した方々は復職者・休職者に「配慮して」とおっしゃいます。しかし当事者は配慮されているという気持ちにはならなかったそうです。両者合意の上で行われていることならば、異なる配慮になったであろうと思われるものが含まれているのはおわかりになると思います。
その配慮は誰のためか
復職者への対応に限ったことではありませんが、こうした好ましくない配慮は、悪意がある場合を除いて配慮する側の思い込み、または偏った「忖度」により行われることが多いようです。ちなみに
「配慮」とは、 『良い結果になるように、あれこれと心をくばること』
という意味です。当然ですが、配慮はされる方のために行うものです。相手が何を望み、どうすることが良い結果を生むのかが不確かならば、配慮どころか「排除」になる可能性があります。「忖度」とか「空気を読む」など、わかりにくいことではなく、きちんと話を聞き、対応をお考えいただければと願います。
また、復職者の中には、休んでいた間の遅れを取り戻そうと、復帰直後からエンジン全開で働こうしてしまうケースもあります。いきなり全力ではさすがに疲れが出て、再度調子を崩す結果になってしまうこともあり、再休職となってしまうこともあります。そういう方は復帰後すぐに休職前の業務量で大丈夫とおっしゃるかもしれません。しかし、特に復帰当初はきちんと相談の上、業務制限することを基本的にはお考えいただければと思います。ご本人の希望を加味し、適切な配慮をお願いしたいと思います。
以前、友人から最近お付き合いをはじめた相手について相談を受けたことを思い出しました。とても優しい彼なのですが、その優しさが少々ズレているとのこと。どういうことかもう少し聞いてみると、「例えば、お腹が空いている時に、コートをかけてくれるような優しさ」と表現されました。「寒いんじゃなくて腹減ってんだよ」ってバシっと言ってやれ!とアドバイス致しました。言わなくても感じ取って欲しいとおっしゃるのかもしれませんが、大切な相手ならば「忖度」もほどほどに。
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