休職者のメンタリティ
先日2ヶ月の休職期間を終え、職場復帰された方のカウンセリング行いました。ご本人の了解をいただいたので、休職に至った時の状況と気持ちについて、少し詳しくご紹介したいと思います。メンタルヘルス研修をする際にご説明していることを含みますが、事例を少しでもリアルに感じてもらえれば幸いです。
頭痛が酷くて集中できない
小山さん(仮名)は50代の管理職です。明るく快活、運動好きで年中日焼けしているような一見健康的な男性でした。職場は非常に忙しい部署で社内の期待も高く、ストレスフルな毎日でしたが、部下と一緒に乗り越える毎日でした。 新サービスの開発と提供にあたり、経営層から成果についての厳しい叱責、顧客とのトラブルが頻発し、人員増や仕事の割り振り等を進めようとしましたが、上長からの理解を得られず、上司・部下の板ばさみになる場面が増えてきました。 5月のある会議中、突然激しいめまいと頭痛に襲われました。その日は午後休みを取り、急遽かかりつけの内科を受診しましたが、所見は認められませんでした。頭痛薬を処方され、一旦は経過観察となりましたが、その後頭痛の頻度は増し、集中できないことから更に残業時間が増え、気づくと社内でもトップクラスの過重労働者となっていきました。
子どもに「顔が怖い」と泣かれた
「ストレス要因は仕事です」と、小山さんは言い切ります。残業を終え、電車で最寄り駅に到着すると、最初の頃は頭痛が消えてしまっていたのだそうです。家には奥様とまだ小さい娘がいるのですが、ますます帰宅が遅くなり、起きている娘に会えなくなっていたとのことでした。元々切り替えの早い小山さんは、仕事から離れるとプライベートを楽しめるタイプだったと言いますが、次第に仕事のことが頭から離れなくなり、それに伴い帰宅後も頭痛が続くようになっていきました。 そんな中、外出先から直帰し、珍しく早めに帰宅した小山さんは久しぶりに起きている娘に会えたのですが、「顔が怖い」と泣かれてショックを受けたそうです。奥様からも、「夜、うなされていることが増えた」と心配されました。このままではいけないと思った小山さんは意を決して精神科を受診しました。脳に異常がないことを検査で確認し、2ヶ月の療養を要するという診断書を提出し、休職に入りました。診断名は「身体表現性障害」でした。
「仕事を休む」ということ
小山さんが療養に至るまでには様々な葛藤があったそうです。 「部下が忙しい中、この程度で自分が休んでいいのか」 「休む必要のある不調までには至っていないのではないか。逃げているだけではないのか」 「頭痛がひどいだけでうつ病ではない。他に悪いところがあるのではないか」 「自分が中心に関わっている案件を忙しい部下に上乗せするのは申し訳ない」 「2ヶ月は長すぎるのではないか。自分の居場所がなくなるのではないか」 仕事を休むことに踏み切れなかった小山さんに対し、主治医は「休まなければいけない人は皆同じようなことを言います。頭痛は休めという身体からのサインです」と話をされたそうです。また、家族だけでなく、部下・同僚からも休養を勧められたこともあり、ようやく療養することを決心したそうです。 仕事を休むと決め、会社の了承を得て療養を開始しましたが、当初は仕事のことが頭から離れず、かえって疲れたと言います。出社しないことはわかっているのですが毎朝同じ時間に目が覚め、仕事の進捗や部下のことが気にかかります。うなされないまでも仕事の夢ばかりを見る状況が続きました。「何も言葉を発しないが、困った顔をして私を見ている部下の顔が何度も夢に出てきました」といいます。休めていないことに気づき、頭の切り替えを意識するまで3週間を要したそうです。 「会社を休んだからといってすぐに療養できるわけではないことが良くわかりました」 また、体力が落ちないようにと、出勤時間帯にウォーキングをしようとしましたが、近所の会社に向かう人たちを見ると、なんとなく後ろめたさを感じ、当初は外出しにくかったそうです。 「長めの夏休み、と軽口を叩いて療養に入ったのに、本人が一番そう思っていなかったようです」
「たかが仕事です」
私はメンタルヘルス研修をする中で、ストレスのない仕事はないし、頑張らなければ仕事をする上での筋力はつかないことも事実ですとお話します。それでも、体調を崩してまでしなければいけない仕事はありませんし、望まれてもいません。「体調を崩しても、会社は休みはくれまですが、治してはくれません。たかが仕事です」とお伝えしています。また、小山さんの言葉通り、仕事を休んだからといって、仕事のことばかり考え療養に専念できなければ休んだことにはなりません。幸い小山さんは3週間でその状況から脱し、「仕事アタマ」からの切り替えと療養に成功しました。しかし、職場が気になるあまり、電話やメールで何度も確認しないと安心できず、療養が在宅勤務のような状態になり、症状改善を遅らせてしまう方もいらっしゃいます。 2ヵ月後、小山さんは職場復帰しています。復帰直後は産業医面談の上、定時勤務の業務制限から勤務をスタートしました。職場のメンバーが暖かく、自然に迎えてくれたこともあり、救われているそうです。「部下が忙しいのに上司の自分だけ毎日定時退社するのは気が引けるし、成果を生んでいないことに罪悪感がある」と言いますが、「療養前と同じ仕事のやり方ではまた身体がおかしくなるでしょう。仕事への向き合い方を考えながら過ごしています」と話してくれました。
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